
故人が他人に全財産を譲ると遺言書を残していた場合の対処法
相続のルールでは、通常は亡くなった方の親族が相続人となり、遺産を引き継ぐことになっています。しかし、親族がいなかったり、交流がなかったり、あるいは仲違いをしているといった人は、血縁関係はなくてもお世話になった人に自分の財産を譲りたいと思うかもしれません。
それを可能にするのが「遺言書」の作成。もし、亡くなった方の遺言書に、「近所の人に全財産を譲ります。」と書かれていた場合、親族は全く相続ができなくなってしまうのでしょうか。遺言書の特徴と効力について見ていきましょう。
相続では遺言が優先
相続には、家族などが法定相続人となり、民法で定められた法定相続分の財産を相続する「法定相続」と、遺言の内容によって決まる「遺言相続」があります。日本の相続では、この2種類のうち、遺言相続が優先されるため、亡くなった方が遺言を作成していた場合、遺言に従う必要があります。遺言を書いて残しておけば、死後の自分の財産の処分方法について、法定相続の枠にとらわれず自由に指定できるのです。つまり、相続人がいても他人に財産を譲るということが可能になるのです。
仲違いをしていたおじいさんの相続財産が…
ここで、この遺言相続でトラブルとなる例を考えてみましょう。
現金や土地、株など、多くの資産を有していたとあるおじいさんは、家族を顧みない性格で、資金力を背景に若い愛人を囲うなどしていたため、息子一家と口論になり、疎遠となっていました。年老いてからも息子一家はおじいさんの面倒を見るのを拒否するほど交流を絶っていました。
自分に対して冷淡な息子一家よりも若い愛人やお手伝いさんに愛情が移っていたおじいさんは、他人である愛人やお手伝いさんに全財産を譲るという遺言書を作成しました。遺言にそのまま従うと、全財産が愛人とお手伝いさんに渡ってしまいます。では、息子一家が遺産を相続したい場合、どのように対処できるでしょうか。
1. 遺言を隠蔽してはいけない
遺品の整理をしている際に、故人の遺言書を見つけ、そこに他人に全財産を譲るという、家族にとっては不都合な内容が書いてあったとしても、遺言書を隠したり、破棄したりしてはいけません。そのような事実が発覚した場合、民放に定められた「相続人の欠落事由」に該当してしまうため、相続人としての権利を失ってしまうのです。
2. 遺留分を持っている場合は遺留分減殺請求をする
亡くなった人の遺言に全財産を他人に譲るという内容が書かれていたとしても、相続の資格を満たしている人(遺留分を持っている人)が遺留分減殺請求を行えば、遺産を受け取った人から財産を取り戻すことができます。
遺留分を持っている人は、
・配偶者
・子 またはその代襲相続人(子が相続権を失っている場合。次世代の子)
・直系尊属(先祖)
です。
遺留分の割合は、
・直系尊属(先祖)のみが相続人の場合は相続財産の3分の1
・上記以外の場合は相続財産の2分の1
となっています。
つまり、全財産を他人に譲るという遺言書があった場合でも、遺留分減殺請求をすれば、最大半分は遺族が取り戻すことができます。遺産の半分を相続できないのは納得がいかないかもしれませんが、遺言書を隠して相続権を失うよりは遺留分減殺請求をした方が賢明だと言えるでしょう。
遺留分減殺請求は期限がある
遺留分減殺請求は、遺留分侵害の事実を知った時から1年以内に行わなければなりません。また、遺留分侵害の事実を知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過してしまうと、遺留分減殺請求はできなくなってしまいます。生前、仲違いをしていた相手であっても、財産を相続したい場合は早めに遺品整理に駆けつけましょう。