2020.01.14

相続放棄のルールを押さえておこう!「必要な財産だけ相続」は通用しない

暮らしのQ&A

親族が亡くなった際、故人が所有していた資産を引き継ぐ相続。家族・親戚が全くいないという方以外は、ある日突然相続人となる可能性があります。相続の中で、処分に困ってしまう可能性が高いものが、俗に「負動産」と呼ばれる、資産価値のない不動産です。

例えば、故人の住んでいた家と、所有していた僻地にある山林を相続することになったとします。このような時、家の方は買い手がつきやすい(資産価値が高い)のに対し、僻地にある山林は買い手が付きにくい(資産価値が低い)という状況になることがあるのです。

結論:自分に必要な資産だけを相続することはできない

このような状況になったとき、資産価値が高く、売却も容易な家の方だけを相続し、山林の方は相続放棄したいと考える方は多いのではないでしょうか。しかし、日本の民法には、以下のようなことが規定されています。

民法第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

つまり、結論を言うと、相続を行う場合は必要な資産も不要な資産も全て、一切の権利義務を継承しなければならないのです。資産性の高いものだけを都合よく相続することはできない仕組みになっているのです。

資産価値が低くても社会的責任が発生

固定資産税がかかる

資産価値の高い家の方は、売却をしたり、自分たちが住んだり、別荘として活用するなど、様々な活用方法が見出せるので、その家のために固定資産税を支払うことに抵抗はないかもしれません。

しかし、自分たちを含め家族の誰も訪れないような僻地の山林にも固定資産税は平等にかかってしまいます。利用することも処分することもできない山林のために固定資産税を支払うことは、ただの重荷であると感じてしまうことでしょう。ただし、山林の評価額が一定の評価額に達しない場合は固定資産税の支払いの必要は発生しません。

管理責任がある

税金が発生する以外に高まるリスクとして、相続した山林で何らかのトラブルが発生した場合、自分たちの生活とは全く関係がなくても管理責任を問われるということがあります。例えば、住宅地付近に面している山林を相続し、樹木が住民の敷地や生活道路まで伸びてしまったり、雑草や落ち葉が住民の敷地に落ち、迷惑になってしまったりといった些細なトラブルがあったとしても、現地の住民はあなたの土地に勝手に立ち入って樹木や雑草を切ったりすることはできません。

つまり、いくら不要な山林とはいえ、相続をした所有者が近隣の住民の方に迷惑とならないよう適切に管理しなければならないのです。仮に、生活道路にはみ出している樹木が原因で交通事故が発生するようなことになれば、事態はより深刻になります。実際に、管理を怠ったことが原因で地元住民と所有者の間で裁判になったケースもあるため、相続をするならばこのようなリスクがあることを認識しておきましょう。

被相続人が不要な山林を所有する原因

あなたに不要な山林を相続させた被相続人である親族は、なぜ不要な山林を取得してしまったのでしょうか。原因は人によって様々ですが、典型的な理由として、以下のようなものが挙げられます。

Case1 被相続人自体も先祖からその山林を相続し、売却できなかった

Case2 バブル期に土地を購入したもののバブル崩壊とともに資産価値がなくなってしまった

Case3 怪しげな不動産業者に騙されて無価値な土地を買ってしまった

このような理由を見ると、被相続人が特異な生活を送っていたというよりも、通常の生活を送っていたら誰でも陥ってしまいかねない状況ゆえに資産価値の低い山林を取得してしまうことが多いことがわかります。そのため、自分の親族がそんな無用な山林を持っているはずがない、と安心することは禁物です。

特にCase1のように、先祖代々相続してきた山林を被相続人が所有している場合、被相続人が存命の間に山林を所有しているという事実を被相続人が誰も知らずに生活していて、いざ相続の手続きをする段になって初めて存在を知る、という状況も珍しいことではありません。

不要な資産だけを相続放棄することはできない

このような使い道のない山林のような、いわゆる「負動産」を相続しない方法として挙げられるのが、相続放棄です。しかし、この相続放棄を行なってしまうと、仮に資産価値が高い家や預貯金といった優良な資産があったとしてもそれもろとも放棄しなければならないのです。

また、相続放棄をするには相続人全員の同意が必要というハードルがあります。相続人となる可能性のある親族と日頃からコミュニケーションをとっておきましょう。

相続放棄をしても管理責任は残る

相続人全員が連帯して、不要な山林の相続放棄に成功した!となっても、安心することはできません。何と、相続放棄をすると、放棄した土地の固定資産税の支払いは不要になるものの、管理責任は依然として相続人に残ってしまうのです。相続放棄をした人の管理義務に関して、民法では以下のように定められています。

民法第940条(相続の放棄をした者による管理)
1.相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

つまり、自分のものでもない土地の管理をする責任だけが残ってしまうのです。この条文を読むと、あなたの相続放棄によって相続人となった誰かが管理を始めることができるようになれば、管理責任から解放されるようにも受け取れますが、そのような存在が現れることは期待しない方が良いでしょう。

地方自治体への寄付は望みが薄い

資産価値が低く、買い手が着く見込みのない山林を処分する方法として、地方自治体への寄付という方法があります。ただし、この方法には地方自治体が寄付を受け付けてくれれば、という条件が付きます。地方自治体としても、活用することが困難な山林を引き取りたいとは思わないのです。

さらに、その不要な土地にかかる固定資産税は地方自治体の財源にもなっているのです。自治体の都市計画でその土地が再開発予定地になっていたり、ゴミ処分場などの公共施設の設置を計画していたりする場合など、余程利用価値がある山林でなければ寄付を受け付けてはくれないでしょう。

相続放棄をしなければ子孫に引き継がれる

不要な山林を相続することになり、今大変な苦労を強いられている相続人のあなたも、いつかは被相続人となる時がやってきます。あなたの代で相続放棄を行わないと、その負動産が我が子や孫に引き継がれてしまうのです。

反対に、あなたの代で相続放棄を行えば、子孫にその負動産の管理義務が引き継がれることはありません。将来的にあなたの子孫に「200年前に先祖が購入した、自宅から500km離れたところにある土地の固定資産税を払って、管理をしなければならない」ということをさせたくない場合は、あなたの代で相続放棄をするという選択肢もあるでしょう。

相続か相続放棄かはバランスを見て決断して

この記事の冒頭で、相続をするときは資産価値の高いものも低いものも全て相続しなければならないことについて解説しました。資産価値の低い山林を子孫に残したくない場合でも、家の価値が高かったり、預貯金が多かったりといった場合は、残しておいた方が良いという場合もあります。

しかし、相続する財産の総額があまりにも多い場合は、相続税の課税対象となるので注意が必要です。相続するか、相続放棄するかのバランスの見極めは、個人で判断するのではなく専門家に相談することを視野に入れると良いでしょう。

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